東京高等裁判所 平成11年(ネ)2724号 判決
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求める裁判
一 控訴人ら
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は控訴人Aに対し一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年五月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被控訴人は控訴人Bに対し五〇万円及びこれに対する平成一〇年五月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被控訴人は控訴人Cに対し五〇万円及びこれに対する平成一〇年五月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 被控訴人は「市報ひがしむらやま」紙上に原判決別紙一「謝罪広告」記載の謝罪広告を、一頁二段のスペース、謝罪広告の四字は初号活字、その他の部分は二〇ポイント活字をもって掲載せよ。
6 被控訴人は「平成七年東村山市議会三月定例会東村山市議会会議録」原本に原判決別紙二「訂正措置」記載のとおり削除する旨記載し、既に刊行済みの「平成七年東村山市議会三月定例会東村山市議会会議録」副本を回収せよ。
7 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文第一項同旨
第二事案の概要
次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第二 事案の概要」に記載のとおりである(ただし、原判決書六頁一〇行目及び同八頁六行目の各「原告」をいずれも「控訴人A」に改める。)から、これを引用する。
一 控訴人らの補充主張
1 本件発言(原判決別紙二)は、摘示された事実自体からもそれが大橋朝男の発言目的と関連しないものであって、D及び控訴人Aを誹謗中傷し名誉を毀損することを意図し、違法又は不当な目的の下に内容が虚偽であることを知りながらあえて行われたことは明らかである。したがって、被控訴人によって本件発言につき真実性の証明がされない以上、被控訴人に国家賠償責任が生ずるのは当然である。
2 地方議会議員には国会議員とは異なり免責特権がなく(最高裁昭和四二年五月二四日判決)、したがってその議会等における発言に関する言論の自由は一般の私人以上には保障されておらず(地方自治法一三二条)、右発言が他人の名誉を毀損するときは当該議員がその発言に対する法的責任を負うのが当然である。地方議会議員は民意の反映を職責とし、地方自治法上直接民主政的制度が規定され、住民が議員の選挙権のみならず罷免権をも有するなど住民に対して直接責任を負い、ナシオン主権の観点から国民に対して直接的な責任を負わないとされる国会議員とは本質的な差異があるから、両者を同列に扱う余地はなく、国会議員の質疑中の名誉毀損発言に関する最高裁判所平成九年九月九日判決は地方議会議員には妥当しない。
3 地方議会議員の職務を行うについての故意又は過失による名誉毀損等の不法行為については国家賠償法一条一項により公共団体が責任を負い、当該議員は個人責任を問われない(最高裁判所昭和三〇年四月一九日判決、同昭和五三年一〇月二〇日判決)。しかし、同条項の違法性の判断につき明文上規定されていない特別の事情(違法不当な目的、虚偽であることの認識認容等加害者の積極的悪意というべき極めて特殊な主観的要件)が必要であるとすると、その不存在又は事実立証の不十分のために当該行為が違法とされないこととなり、被害を受けた一般人は損害の賠償を受けられないという不合理な結果となる。また、地方議会に認められている自治・自律の権能の範囲内の行為についても原則的に裁判所の司法審査権の介入が許され(最高裁判所昭和三五年三月九日判決)、その議員には免責特権がなく、与えられている権限や裁量の範囲は地方自治法その他の法令によって規定されていて広範なものであるとはいえず、右議員には質疑等において一般市民に損害を与えることが許容される裁量などはない(原判決は以上の点に関する法律解釈の誤り、事実誤認、理由不備及び判例違背がある。)。
4 国家賠償法一条一項の違法性については国又は公共団体がその不存在(適法性)につき主張立証責任を負う(原判決は被控訴人の右主張立証がないのに右条項に関する見解を展開しており、弁論主義に違反する。)。
二 被控訴人の反論
控訴人らの主張はいずれも争う。
言論の自由が保証される程度は状況により差があり、地方議会議員に免責特権が認められなくとも、その議会における発言の自由が他の場合よりも保障されるとすることは民主主義議会の発展に意義がある。
第三証拠関係
本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四当裁判所の判断
当裁判所も控訴人らの請求はいずれも理由がないと判断する。その理由は次のとおり付け加えるほかは原判決「事実及び理由」中の「第三 当裁判所の判断」に記載のとおりである(ただし、原判決書一六頁一〇行目の「考えるかとに」を「考えるかに」に、同二〇頁八行目の「市の」から同九行目の「であり」までを「市の立法作用にとどまらず各種の行政的意思決定についても議決権、決定権を有し更に調査権を有するなど広範な権限を与えられており」に、同二三頁四行目の「法」を「地方自治法その他の法令」にそれぞれ改める。)から、これを引用する。
(控訴人らの補充主張に対する判断)
一 控訴人らは、本件発言の内容は虚偽であって大橋朝男の発言目的と関連のない誹謗中傷や名誉毀損という違法又は不当な目的の下に行われたものであり、地方議会議員の議会等における発言は一般私人以上には保障されていない等として、被控訴人には損害賠償責任がある旨主張する。
二 本件発言中にはD及び控訴人Aがガセネタを週刊新潮に売り込んだ、東村山市民新聞は誹謗中傷記事を掲載している、控訴人Aは変質者である、司法試験を受験したが合格できず、濫訴を繰り返す裁判マニアである等とする部分があり、これらの部分だけを取り出して考察すると、本件発言中には表現が不適切であり、具体的事実を摘示してD及び控訴人Aの人格的価値についての社会的評価を低下させるものがあるということができる。
しかし、甲一及び弁論の全趣旨によると、本件発言は東村山市議会議員である大橋朝男が週刊新潮の記事及び東村山市民新聞の記事に関する被控訴人(東村山市の執行機関)の意見や対応を質すため被控訴人に対して行った一般質問の内容又は前提として、同人の認識しあるいは感じている事実を述べたものであることが認められるから、本件発言は右一般質問における発言目的と密接に関連するものであるということができる。そして、大橋朝男は右部分が虚偽であることを知りながら、D及び控訴人Aを誹謗中傷しその名誉を毀損するという目的の下に、あえて本件発言を行ったと認めるべき証拠はない。
また、地方議会は住民の代表機関、決議機関であるとともに立法機関であって、右議会においては自由な言論を通じて民主主義政治が実践されるべきであるから、その議員は右機関の構成員としての職責を果たすため自らの政治的判断を含む裁量に基づき一般質問等における発言を行うことができるのであり、その反面、右発言等によって結果的に個別の国民の名誉等が侵害されることになったとしても、直ちに当該議員がその職務上の法的義務に違背したとはいえず、当然に国家賠償法一条一項による地方公共団体の賠償責任が生ずるものではない。これに関し、控訴人らは免責特権を有しない地方議会議員には右のような法理は妥当しない旨主張する。しかし、民主主義政治実現のために議員としての裁量に基づく発言の自由が確保されるべきことは国会議員の場合と地方議会議員の場合とで本質的に異なるものとすべき根拠はなく、地方議会議員について憲法上免責特権が保証されていないことは右法理の適用に影響を及ぼすものではない。また、地方議会及びその議員に対する直接民主制や住民に対する直接責任によって議員の発言の自由が制約されるとは解されないし、地方自治法一三二条が言論の品位の維持を定め無礼の言葉の使用等を禁止しているのは議場における討議の本来の目的を達成し円滑な審議を図るためであると解されるから、右規定をもって地方議会議員の発言の自由を制約する根拠とすることはできない(国会法一一九条も同旨を規定している。)。
なお、控訴人らは原判決の弁論主義違反をいうが、被控訴人は、本件発言は一般質問として行われたものであるから国家賠償法の適用はない旨主張(被控訴人の平成一〇年八月一二日付け準備書面の記載に基づく原判決書一〇頁七行目以下)することによって、同法一条一項の要件であると解される違法性の存否を争っていることは明らかである。
したがって、控訴人らの主張はいずれも採用できない。
第五結論
よって、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条一項本文、六一条、六五条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 新村正人 裁判官 宮岡章 裁判官 笠井勝彦)